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わが航海

何者でもない僕が、何者かになるために手に取ったのは、本という羅針盤だ。

いまは鈍く輝くそのアイテムを片手に、時折、

『自分の行き着く先は、果たして何処なのだろうか』

と、考えてしまう。

道中、果てなき知識の宝に感動し、一方で、果てなき荒野に絶望する。

その日々の繰り返し。

そうして行き着いた先で航路を振り返ったとき、回り回って、1ナノメートルも進んでいないかもしれない。

その恐怖が、常にのしかかって、羅針盤を支える手が震える時がある。

それでもなお、形のない何かが、離してはいけないと、語りかける。

僕が、僕として生まれてきた使命だと、言い聞かせてくる。

ただ、ひたすら進み続ける。

それこそ、手に抱く羅針盤を、一生をかけて磨き上げるための僕の航海なのかもしれない。